2018年10月23日~2018年10月30日
財務省の財政制度分科会が開催されました。
★財政制度分科会(平成30年10月24日開催)資料一覧
報道されたとおり、科学技術政策に厳しい指摘をしています。
配付資料
資料1 文教・科学技術(PDF:3571KB)
要点は以下です。
●日本の科学技術関係予算は、対GDP比でも実額でも、主要先進国と比べて遜色のない水準
●科学技術関係予算額はトップ論文数上位国よりも多いにもかかわらず、トップ論文数が4000本前後にとどまっている
●日本の論文生産性は低い(ドイツの1.8倍のコストがかかる)
●論文生産性の低さは、国際的に注目を集める研究領域への挑戦意欲に乏しいことが一因か
● 論文生産性の低さは、伝統的な分野に固着していることも一因か
●新陳代謝を妨げているのは、大学の硬直性ではないか
以上の分析を元に以下のように述べます。
検討の方向性
科学技術(科技関係予算)
○ 日本の科学技術関係予算は主要先進国と比べて遜色のない水準であるにもかかわらず、質の高い論文の数は主要先進国に大きく劣る。研究開発の生産性が低いことが真の課題ではないか。
この生産性を高めるためには、科学技術分野における戦略やプロジェクトにおいては、
・ 予算の「量」の多寡などのインプットを目標とするのではなく、研究開発の中身や質などのアウトカムを目標とする
・ いわゆる「ハリ」の分野のみを提示するのではなく、「メリ」の分野も明確化し、旧来分野から新たな分野への転換、新陳代謝を促す
といったことが必要ではないか。
大学に対しても厳しい指摘をしています。
●諸外国では、運営費交付金に依存しなくても成果をあげる大学は多い
●国公立大学への学生一人当たり公的支援は主要先進国の中でトップクラス
●研究費の執行に非効率があるのではないか
●教員数を増加させる中で定年延長やシニア採用などにより、65歳以上教員は増加
●外部資金も含めた教員一人当たり研究費は増加
●フルタイム換算の研究者数(=総研究時間数)は主要先進国並み
●「博士課程在籍者数」は高い水準で推移
●「博士課程在籍者数」の問題は、社会が求める学生を育成できるかどうかの問題
●論文生産性には大学間で10倍もの開きがある
●運営費交付金はおおむね教員数に応じた配分。法人化後も大きな変化は見られない
●運営費交付金は成果に応じて配分されないことが問題
●単なる「インプット指標」や「無関係な指標」で評価
●アウトカム指標が設定されていたとしても大学間での相対評価が行われていない
このほか、指摘は多岐に渡り、研究不正についても触れています。
我が国の企業部門の研究開発投資の水準は主要先進国の中でトップクラスにある中で、民間企業が自己資金で実施することが可能と考えられる分野に公費投入するのではなく、むしろ大学や公的研究機関の知恵やノウハウに対し、企業が資金投入することで、社会のニーズにあった研究の充実が期待できるのではないか。
また、執行面では、
・ 基金方式については、適切な評価やPDCAサイクルの構築がおろそかになりがちであることから、その利用を厳に慎む必要があるのではないか。
・ 研究不正の防止については、不正行為が起きた場合の予算返還の徹底、大学等の研究機関の管理責任の強化が必要ではないか。
詳細は資料をご覧いただきたいですが、非常に厳しい指摘です。もっとも財務省はこうした主張を繰り返しており、4月の財政制度分科会でも指摘があり、今回の資料と重なっている部分があります。
財政制度分科会(平成30年4月17日開催)資料一覧
資料3 文教・科学技術(PDF:2004KB)
指摘をうけて反省すべき点はありますが、こうした指摘には、そももそ諸外国と比較している予算が異なっており、意味がないとの反論があります。
財務省が公的支出としているものには、政府支出以外に公的支出とも研究開発費とも言い難い研究機関の自前の予算が加えられており、比較すべき額として不適切だと言います。これを差し引けば、日本の研究生産性は決して諸外国に劣っていないと。
牧野淳一郎 科学 Vol 88, No.7 704-707, 2018.
小林信一 科学 Vol 88, No.8 838-845, 2018.
研究力低下が研究者の挑戦意欲の問題とするなど、納得し難いと思わざるを得ません。挑戦しづらい、あるいは挑戦しても報われない仕組みにも問題あるはずです。
★政策が足を引っ張っている日本の科学技術力?
研究者だけでなく政策決定者が問われなければフェアでない
https://webronza.asahi.com/science/articles/2018102300003.html
と言いたくなるのも分かります。
★最近の「大学改革」論議がどうでもいいと思えるのは一体なぜ…?
青くさい理想論だが机上の空論ではない
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58164
宮野 公樹さんはこう言います。
「ここ10年来の大学や科学技術に関わる政策で一番気になるのは、それがいいかどうかはともかく、論文を増やそうとしながらも結果的に増えてないという決定的な事実です。
それをトップダウンマネジメントが働かせられない大学が悪いというなら、それを踏まえて作らなかった政策こそ反省したほうがいいように思います。ある商品が売れなかったことを消費者のせいにする会社はだめでしょう。」
とはいえ、大学は政策サイドからの指摘に答えざるを得ません。
★大学、求められる「稼ぐ力」 大型の産学連携模索
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36972080W8A021C1TJM000/
大学ランキングを無視しよう、と思っても、次から次へと発表され、報道されるわけです。
★QSアジア大学ランキング発表 1位はシンガポール国立大学、国内首位は11位東京大学
https://univ-journal.jp/23273/
厳しい批判にさらされる大学ですが、希望はあります。宮野さんは言います。
「そのように各個人が抗わない限り学術界がよくなるわけありません。政策だって結局は個々人の研究者を変えたいのでしょう? であれば政策や法令の前に大学人が自分たちの手で自分たちの学術界を変える方がかっこよくはないでしょうか。」
政策が悪い、大学が悪い、研究者が悪いといがみ合うのではなく、建設的に、前向きに、普通の人々が幸せになるための大学を、大学人自らが行動し作り出してほしいと思っています。
★医学部医学科の入学者選抜における公正確保等に係る緊急調査について
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/senbatsu/1409128.htm
先週報道のみご紹介しましたが、資料がでました。
大学名を公表しなかったため、混乱が生じています。
入試不正、どの大学で? 医学部受験生ら困惑
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO36847090U8A021C1CC1000/
慶應義塾大学では、ホームページで公正な入試を行なっている旨を公表しました。
慶應義塾大学医学部の入学者選抜に関して
https://www.keio.ac.jp/ja/news/2018/10/26/27-49032/
各大学とも早急に受験生、社会に向けメッセージを送るべきでしょう。
★安倍総理は第197回国会における安倍内閣総理大臣所信表明演説を行いました
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement2/20181024shoshinhyomei.html
冒頭で本庶博士のノーベル賞受賞決定について触れています。
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/201810/23senryaku_tokku.html
第36回 国家戦略特別区域諮問会議 配布資料
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/dai36/shiryou.html
資料3 「スーパーシティ」構想について(PDF形式:158KB)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/dai36/shiryou3.pdf
★超スマート社会の実現に向けたデータサイエンティスト育成事業 選定状況について
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/miraikachisouzou/1409532.htm
★「ヒトES細胞の樹立に関する指針」案、「ヒトES細胞の使用に関する指針」案及び「ヒトES細胞の分配機関に関する指針」案に関するパブリック・コメント(意見公募手続)の実施について
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/30/10/1410395.htm
★第3期中期目標期間における指定国立大学法人の追加指定について
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/30/10/1410263.htm
大阪大が追加されました。
★平成29年度におけるがん教育の実施状況調査の結果について
http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/1410244.htm
★人材委員会(第81回) 配付資料
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu10/siryo/1410454.htm
議題
卓越研究員事業の改善について
科学技術・学術審議会人材委員会・中央教育審議会大学分科会大学院部会合同部会の審議状況について
★市民科学の発展
No PhDs needed: how citizen science is transforming research
https://www.nature.com/articles/d41586-018-07106-5
★First analysis of ‘pre-registered’ studies shows sharp rise in null findings
https://www.nature.com/articles/d41586-018-07118-1
★Federal officials pause trial testing stem cells for heart disease
サイエンス誌とリトラクションウォットが共同で撤回論文データベースをつくりました。
★What a massive database of retracted papers reveals about science publishing’s ‘death penalty’
Rethinking retractions
By Jeffrey Brainard
Science26 Oct 2018 : 390-393
The largest-ever database of retracted articles suggests the burgeoning numbers reflect better oversight, not a crisis in science.
http://science.sciencemag.org/content/362/6413/390
One publisher, more than 7000 retractions
By Alison McCook
Science26 Oct 2018 : 393
Thousands of abstracts of conference presentations, most by authors in China, were declared flawed.
http://science.sciencemag.org/content/362/6413/393
A scientist's fraudulent studies put patients at risk
By Adam Marcus
Science26 Oct 2018 : 394
A physician with nearly 100 retracted papers may have misrepresented risks of an intravenous fluid.
http://science.sciencemag.org/content/362/6413/394.1
Fallout for co-authors
By Alison McCook
Science26 Oct 2018 : 394-395
When a scientist has papers retracted for scientific misconduct, collaborators can suffer career damage.
http://science.sciencemag.org/content/362/6413/394.2
Volunteer watchdogs pushed a small country up the rankings
By Ivan Oransky
Science26 Oct 2018 : 395
Romania has among the highest retraction rates, thanks partly to oversight by volunteers.
http://science.sciencemag.org/content/362/6413/395
Retraction Watch Launches Its Database of Papers
https://www.the-scientist.com/news-opinion/retraction-watch-launches-its-database-of-papers-65003
★Move over, Hubble: Discovery of expanding cosmos assigned to little-known Belgian astronomer-priest
★米国:日本への渡航、妊婦は自粛を 風疹警戒で勧告
https://mainichi.jp/articles/20181024/dde/007/030/039000c
Rubella in Japan
https://wwwnc.cdc.gov/travel/notices/alert/rubella-japan
麻疹の感染が拡大中。
★政府、動物で人の臓器作製解禁へ
来春までに指針改正
https://this.kiji.is/428522656867550305?c=39546741839462401
動物で人の臓器作製解禁へ 来春までに指針改正
https://www.sankei.com/life/news/181027/lif1810270004-n1.html
ヒト臓器:「ブタ」解禁 移植用作製・創薬研究へ 指針改正後、来春にも
https://mainichi.jp/articles/20181027/ddm/002/040/042000c
★Threats to timely sharing of pathogen sequence data
http://science.sciencemag.org/content/362/6413/404
★THE ‘POLITICAL’ SCIENTISTS
Dozens of scientists ran for U.S. Congress. On the eve of the general election, 18 are still standing
https://vis.sciencemag.org/midterm-science-candidates/
Kathleen Williams wants Montana voters to help her restore civility and science
Meet the Scientists Still in the Running for Congressional Seats
Numerous Life Scientists Seek Election to State Legislatures
米国議会中間選挙直前。民主党候補として出馬している科学者たちの動向が中も祈雨を集めています。果たして何人当選するでしょうか。
★次世代加速器の日本誘致求め「テキサス宣言」 物理学者の国際会議
https://www.sankei.com/life/news/181026/lif1810260057-n1.html
科学の森:どうなる次世代加速器誘致 国際リニアコライダー、課題多く
https://mainichi.jp/articles/20181025/ddm/016/040/014000c
★S&T Policy Fellowships find a home in the judiciary
By Becky Ham
Science26 Oct 2018 : 412-413
Fellows work on independent research topics during their year at the Federal Judicial Center
http://science.sciencemag.org/content/362/6413/412
AAASのフェローシップ。2014年から連邦司法センターに送っています。
★The National Science Board today released a statement on security and science
https://www.nsf.gov/news/news_summ.jsp?cntn_id=297039
★Leading cancer-research charity takes tough stance on bullying
https://www.nature.com/articles/d41586-018-07162-x
★When you’re the only woman: The challenges for female Ph.D. students in male-dominated cohorts
★Survey reveals highs and lows of a life in science
Nature の調査から、科学者の大半は自身の職業に満足しているが、ハラスメントや差別、メンタルヘルス問題など、解決すべき課題があることも浮き彫りになった。
https://www.nature.com/articles/d41586-018-07149-8
Natureの調査。
★西沢潤一さん死去 半導体の世界的権威
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36962480W8A021C1CZ8000/
「ミスター半導体」西沢潤一さんが死去…92歳
https://www.yomiuri.co.jp/science/20181026-OYT1T50110.html
愚直な実験主義者 西沢潤一さん死去
追い求めた独創性
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO37014720X21C18A0CC1000/
一度だけですがお会いしたことがあります。ご冥福をお祈りいたします。
★ノーベル賞「小野薬品も貢献」 社長が本庶氏に反論
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36949540W8A021C1000000/
本庶氏の指摘「心外」 オプジーボ開発の小野薬品社長
http://www.asahi.com/articles/ASLBV4TVVLBVPLFA00F.html
アカデミアvs民間企業…
https://www.sankei.com/life/news/181026/lif1810260014-n1.html
記事では若手研究者の目標になると言われていますが、年齢にかかわらず才能あるものをフェアに評価する大学であってほしいです。