科学・政策と社会ニュースクリップ

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明日も、本音で「デュアルユース」を語ろう

三輪佳子(ライター・立命館大学大学院博士課程院生)

 「サイエンスアゴラ2017」において、毎年恒例の「本音で語る」研究問題ワークショップを、2017年11月25日、無事に開催することができました。
本年のテーマは「本音で語るデュアルユース〜幸せになれる科学研究とは?」でした。長年、「本音で語る」シリーズを企画してこられ、今回も企画提供者のもうお一人だった榎木英介さんに、心からお礼を申し上げます。

サイエンスアゴラ2017企画ページ:本音で語るデュアルユース〜幸せになれる科学研究とは?
http://www.jst.go.jp/csc/scienceagora/program/booth/164/

 本年の「サイエンスアゴラ2017」のテーマは、「越境する」でした。

サイエンスアゴラ2017」が閉幕
http://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2017/11/20171127_01.html
「越境する」をテーマに科学と社会をつなぐ「サイエンスアゴラ2017」が開幕
http://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2017/11/20171124_01.html

 デュアルユースも、軍事・非軍事の「越境」と言えるのかもしれません。しかし、デュアルユースとは何なのでしょうか? 軍事と非軍事の境界はどこにあるのでしょうか? 少し考えてみると、「越境」を考える以前に考えなくてはならないことが多数あることに思い至ります。

 今回は、柿崎真沙子さん(公衆衛生学・藤田保健衛生大学講師)・内村直之さん(フリージャーナリスト)・池内了先生(宇宙物理学・総合研究大学院大学名誉教授・名古屋大学名誉教授)・市川洋さん(海洋科学・日本海洋学会)の4名の方から話題提供をいただきました。市川さんは、参加表明に日本海洋学会の活動を記して下さいましたので、その貴重な話題の提供をお願いし、快諾いただきました。ご多忙の中、快諾いただきました皆様に、心よりお礼を申し上げます。

●「デュアルユース」をめぐる動きと重要性

冒頭、榎木英介さんから、開会挨拶を兼ねて、デュアルユースに関する問題意識の重要性や日本学術会議の動きに関する短い話題提供がありました。また、2017年に他界された横山雅俊さんと長澤友香さんが科学コミュニケーションに果たしてきた役割を思い起こし、追悼の念を捧げました

開会挨拶で用いたPPT
https://www.dropbox.com/s/oxt9ir29ohasu7t/%E6%9C%AC%E9%9F%B3%E3%81%A7%E8%AA%9E%E3%82%8B%E3%83%87%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%A6%E3%83%BC%E3%82%B9.pptx?dl=0

●「軍事だから悪」と言えますか?

 柿崎真沙子さんの話題提供は、「疫学とは何なのか」にはじまり、ともすれば「容認するか」「批判するか」の二者一択になりがちな軍事と疫学について、退役軍人の存在を歴史的にも人口としても(約2000万人、人口比で約6%)無視できない米国の事情と比較しながら明快に解説する内容でした。
米国の退役軍人に対しては、専用の健康保険制度が存在するため、除隊後の追跡調査が容易です。また就労している時期についても、職務の一貫として受ける検診のデータがあります。このため退役軍人のデータは、米国の疫学研究にとって非常に重要な役割を果たしています。しかし日本は、「就職」「退職」「後期高齢者になる」といったライフイベントごとに、健康保険番号が変わります。ボランタリーな協力者を募集すると、就労している若い年齢層の人々が対象になりにくいという問題があります。
 柿崎さんは、米国の退役軍人に対する研究からPTSDが一つの病気と認められ、DV被害者に対する治療や救済にも役立てられていることを説明し、戦争もDV被害も現実に存在する世の中で「軍のデータによる研究だから良くない」という価値判断が可能かどうかに関する問題提起を行い、話題提供を結びました。
 柿崎さんの話題提供を含め、当日の様子は、Togetterまとめで公開しています。

2017.11.25 「本音で語るデュアルユース〜幸せになれる科学研究とは?」 ツイートまとめ
https://togetter.com/li/1176151

●まずは防衛装備庁ウォッチングから

 内村直之さんからは「ジャーナリストの防衛装備庁ウォッチ」と呼ぶべき内容の話題提供がありました。防衛装備庁「安全保障技術研究推進制度」の予算規模が3億円(2015年)→6億円(2016年)→110億円(2017年)と増加していることと、「テーマに沿って採択」という特徴から語りはじめ、防衛装備庁のホームページを読むだけで分かる興味深いことがら、2017年の日本学術会議声明がアカデミア・公的研究機関にもたらす影響などを端的に解説しました。最後に、民間企業にとっては利益より自国の戦争リスクの法が大きいのではないかと指摘し「民間企業の本音を聞きたい」と結びました。

内村直之さんが使用されたPPT
https://www.dropbox.com/s/xe6fbakukbvzpxy/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E8%BB%8D%E4%BA%8B%E6%8A%80%E8%A1%93%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%82%A2%E3%82%B4%E3%83%A9.pptx?dl=0

防衛装備庁ホームページ
http://www.mod.go.jp/atla/index.html

●実は「デュアル」ではなく「モノユース」?

池内了先生からは、「デュアルユース論について」と題した話題提供がありました。冒頭、科学・技術と戦争の関係は、「科学・技術を戦争に使う」「戦争を科学・科学の進歩に利用する」というものでもありえますし、歴史的事実としてそういう側面が存在します。また科学・技術の目的は、「人間を活かすため」「人間を殺すため」の両者でありえます。とは言いながら、軍事には軍事である以上は避けられない秘密主義があり、科学・技術の阻害要因として働きます。
池内先生は、この複雑な「アヤ」を一つ一つ明快に解きほぐし、資金源・目的・公開性の3つによって、「民生か軍事か」を明快に区別しうることを語り、防衛省の言う「デュアルユース」が、実は軍事目的の「モノユース」であることを示しました。そして、ガンジーの「人格なき学問、人間性が欠けた学術に、どんな意味があろうか」という言葉を引用して話題提供を結びました。

池内先生が使用したPPT
https://www.dropbox.com/s/xc2vll17qslf2eb/%EF%BC%91%EF%BC%97%EF%BC%91%EF%BC%91%EF%BC%92%EF%BC%95%EF%BC%B2-%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%82%A2%E3%82%B4%E3%83%A9%E3%83%87%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%A6%E3%83%BC%E3%82%B9%E8%AB%96%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%20%282%29.ppt?dl=0

●海は一つなのに 海洋科学と軍事の切っても切れない関係

 市川洋さんは、そもそも研究対象である海が軍事行動の場であり、海洋科学が軍事研究と相補的に発展してきたという側面から、海洋科学ならではの「デュアルユース」との距離感と問題点について、話題提供をしてくださいました。当然、ご所属の日本海洋学会でも「デュアルユース」は議論の種となっています。日本海洋学会は、2017年以後、ML・談話会を通じた学会会員相互の議論、一般市民を加えた議論を続けています。しかし「学術の健全な発展」「社会からの負託」に関しても、考え方は人それぞれ。現在のところ「軍事・民生の区分はできない」というところでは合意できているということです。
 海は一つ。海洋科学にとって、国際共同研究は必須です。自国の利益を最優先する軍事研究は、その対極にあります。引き続き、対話を重ねることの重要性を強調して、市川さんは話題提供を結びました。

市川さんが使用したPPT
http://bit.ly/2k15IW6

●防衛事業を行う企業の「中の人」の感覚とは?

短時間ながら、私も話題提供を行いました。私は1990年〜2000年の10年間、防衛事業部門を持つ電機メーカーの半導体部門に勤務していました。しかし自分を含め、企業内の技術者・研究者たちが防衛事業をどう考えていたかは、外部からは想像しにくいものと思われたからです。
武器輸出三原則が存在した時代、防衛庁(省)との取引があることは、民間企業にとって、むしろ事業の安定性をアピールするために誇るべきことでした。自分が開発や生産に関わった製品が実際に戦闘に使用されて誰かの命を奪う可能性は、武器輸出三原則の下では公的には存在しなかったので、気にしたくても気にしようがありませんでした。むしろ防衛事業は、コストを度外視して研究・開発を進めることができるという意味でも貴重でした。しかし、女性総合職にとっては「お客様の都合により、女性だから就けない業務がある」という職務上のハンデをもたらすこともありました。乗組員全員が男性である自衛隊の潜水艦に、女性技術者が乗り組んで実機テストを行うわけにはいかないからです。
むろん、現在は企業ごとに、状況が全く異なるでしょう。私が勤務していた企業は、現在、防衛事業を行っていることを、あまり積極的に世の中に告知していません。誇示していた1990年代とは対照的です。

三輪が話題提供に用いたPPT
https://www.dropbox.com/s/ny6svqqleeswt46/%E7%A7%81%E3%81%A8%E3%83%87%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%A6%E3%83%BC%E3%82%B9.pptx?dl=0

この後、山本伸さん(多摩大学医療・介護ソリューション研究所シニアフェロー/シミックホールディングス株式会社)のファシリテーションにより、参加者全員によるワークショップが行われました。
 自分自身と「デュアルユース」をめぐる悩み、現在の具体的な困りごとを語り合い共有することから始まったワークショップは、時間が経過するとともに深化してゆき、「なぜ研究するのか?」「社会からの負託とは何なのか?」という一人一人考え方の違うテーマに関する真剣な、しかし和やかな議論が深化してゆき、掘り下げても掘り下げきれない「多様性の中で、いかに社会的合意を形成していくのか?」というテーマを、各自が心の中の今後の課題として改めて抱える形で終了しました。

 話題提供とファシリテーションをいただきました皆様、参加してくださいました皆様に、心より御礼を申し上げます。

●今後へ向けて

4月に急逝された横山雅俊さんが、「来年のテーマは『デュアルユース』で」と言い始めたのは、奇しくも今回のワークショップのちょうど1年前、2016年11月25日のことでした。
横山さんが掲げた科学コミュニケーションの灯火を今年も消さずに、「本音で語る」シリーズワークショップという形に出来たのは、多くの方々のご協力あってのことです。心よりお礼申し上げます。

今回で12年目となった「本音で語る」ワークショップのテーマは、下記の通りです。

2006 本音で語る研究倫理問題
2007 本音で語るポスドク問題
2008 本音で語る研究問題〜研究問題 ML 10 周年に寄せて〜
2009 本音で語る“大学とは何か”
2010 本音で語る科学技術政策 - Our Future and STS -
2011 本音で語る“夢の薬”
    〜2010 年問題(特許の期限切れ)をぶっ飛ばせ〜
2012 本音で語る"専門職学位"―薬学6年化は成功するかー
2013 本音で語る生命倫理動物実験なぜ必要?なぜ反対?
2014 本音で語る研究倫理問題リターンズ
2015 本音で語る研究費問題 〜幸せに研究するために〜
2016 本音で語る生命操作〜基礎と臨床の距離どうする?〜
 2017 本音で語るデュアルユース〜幸せになれる科学研究とは?〜

私は2009年からネット中継のお手伝いをするようになり、やがて企画に加えていただきました。横山さんが居られなくなってしまった本年は、手探りで準備をすることになりましたが、多くの方々の有形無形のご協力があり、無事、開催することができました。

気の早い話ですが、来年に向けて、テーマのご提案・実行のご協力を頂戴できれば幸いです。
もしお気持ちがありましたら、ツイッターで榎木さん @enodon や私 @miwachan_info にメンションされるなどの方法で、どうぞご連絡ください。お待ちしています。