科学・政策と社会ニュースクリップ

科学政策や科学コミュニケーション等の情報をクリップしていきます。

朝日新聞私の視点いきさつその1

 私は本業は医者で、医師不足の直撃を受けて、ワークライフバランスもあったもんじゃない生活をしているので、ブログを書く優先順位は極めて乏しい。

 ただ、せっかく今新聞に載せていただいたので、少しだけいきさつや補足などを。

 今回の投稿は、朝日の記者の方からお題をいただいて書き始めた、ある種の依頼原稿。

 で、ポスドク問題について書いてくれ、とのことで…

 うちのNPOでは、2001年に私が、2002年に檀理事が、2003年に林副代表(当時)が私の視点に書いているのだけれど、しばらく間があいたということもあって、書いてみないかと機会を提供していただいた。

 しかしながら、ポスドク問題といっても幅が広い。何から書くべきか、非常に迷った。

 NPO内部でも議論を重ねたが、とっかかりがつかめない。

 で、最初に書いたのがこれ。


博士を活かす仕組みを作れ

 理工系の博士号取得者の就職難が言われて久しい。彼らの多くは任期つきの研究員(博士研究員)になるが、博士研究員の数は近年漸増しており、1万5千人を超えた。しかし少子化等により常勤の研究職は増えておらず、一人の募集に数百人もの応募者が殺到することもあるという。このため、博士研究員を繰り返さざるをえない者が増え、40歳以上の博士研究員の10%に達している。

 これに加え博士研究員は専門に固執しすぎて柔軟性がない、といった先入観が広まり、博士研究員を毎年採用している企業は1%に満たない。また、一般の人たちの多くは、博士研究員は好きなことだけをやってきたのだし、博士号を取得するほど優秀なのだから、就職など自分で見つければよい、と関心を払わない。さまざまな対策がたてられているが、決定打はなく厳しい状況に改善のめどが立たない。こうした状況のなか、大学院博士課程の入学競争倍率が1倍を切った。優秀な人材が科学技術研究に取り組まなくなりつつある。

 私は、こうした事態を改善したいと願い、NPOを立ち上げて理工系の博士研究員の就職問題に取り組んできた。就職に悩む博士研究員の悲痛な声を数多く聞いたが、彼らの多くは、将来に不安を感じている一方、長らく続けてきた研究を完全に捨てたくないと思っていた。それを贅沢だとか、甘いだとかいうのは簡単だ。しかし、長年の夢をあきらめることは、簡単ではないことは理解できる。

 そのような思いを無駄にすることなく、彼らの能力を社会に活かす道はないだろうか。

 私は、博士研究員は、長い間研究に従事してきた経験や知識を無駄にせず、それらを社会に役立てるために、科学と社会をつなぐ、いわば科学の大使の役割を担うことができると考えている。

 博士研究員は、10年以上科学技術究に従事しており、研究の現場や先端の科学技術に通じている。これらは理科教育や市民と科学をつなぐイベントや、あるいは身近な環境問題など、市民が直面している問題解決を手助けするような研究に大いに役立つだろう。理科離れが言われ、先端科学技術の負の側面が懸念される現代において、こうした活動は非常に重要だ。

 最近秋田県では、博士号を持った教員を採用しているが、他府県や研究機関の広報などで、博士研究員の採用が広がってほしい。また、たとえ直接過去の研究経験と関連のない職業に就いたとしても、余暇を用いて地域や職場で科学と社会をつなぐ活動をすれば、科学と社会の関係がより密接になるのではないか。そして、過去の経験が生き、社会に貢献することのできる役割があると分かれば、博士研究員の多くが研究職に固執することなく、自信と誇りをもって積極的に多様な職に就けるだろう。私自身、現在は過去の研究と全く無関係な職業に就いているが、NPOを通じて科学と社会をつなぐさまざまな活動をしており、充実した毎日を送っている。

 関係者は、博士研究員が科学と社会をつなぐ活動を始めやすい環境を整えるため、知恵を絞ってほしい。大学や研究機関の関係者は、多様な職に進む博士研究員たちを、研究競争に敗れた者として見下すのではなく、温かく社会に送り出してほしい。地域社会は、科学館や学校などの場所を提供するなど、活動を支えてほしい。

 研究者が一人前になるまでに、一億円もの費用がかかるという試算もある。資源のない日本は、人材こそが資源だ。こうした人材を眠らせておくのは非常にもったいない。


 しかしながら、没に…

 また明日以降に続く…